写真や名画における縦構図(縦位置)・横構図(横位置)の表現
審美的感覚
目次
写真表現としての「縦構図」と「横構図」。2つの構図にはそれぞれの意味や効果があります。撮影時の縦位置と横位置の選び方は、スマホやカメラに収まりきらない状況の時に使い分けてしまうことがありますね。作品は撮影者の意図や目的が明確なほど伝える力が増します。それでは、一体どのような使い方が「魅せる写真撮影テクニック」となるのでしょうか。ここでは、写真の世界だけに縛られず世界の名画と合わせてご紹介します。
「縦構図」と「横構図」の与える印象
縦構図と横構図の写真はどちらが見受ける機会が多いでしょうか。おそらく、横構図の方が多いことと思います。これは、人間や動物の目に関係しています。目は横に2つ並んでいますね。それゆえ、縦位置よりも横位置の写真の方が自然に感じることができるのです。カメラ自体も横位置の撮影で使うことを前提とされているので、基本的にはフラッシュも横位置撮影に適するように設計されています。
縦構図の効果
- 主観的構図(臨場感の演出・個性を最大限に発揮)
- 空間の「奥行き」や「遠近感」や「高さ」を強調する表現に向く
- 作品や商業写真では文字を入れる為に多く使われる
散りゆくカメリアを縦構図によるインスピレーションで美しく再生
マリーゴールドの香りを届けられるように縦構図で臨場感を演出
横構図の効果
- 客観的構図(説明的・記録的)
- 左右を大きく使えるため背景の情報を多く入れやすく広がりの演出に向く
- 目の原理原則に従っているため安心感や安定感を得やすい
雄大な富士山の勇姿を広がりを持たせる横構図で撮影
その場所の観光資源や文化やアイデンティティに横構図で安定感を持たせる
名画から学ぶ縦構図と横構図の表現手法
表現者として写真の枠組みだけではなく、絵画や版画や水墨画等の同じアートやクリエイティブに触れるように心掛けると、より表現意図や伝える力を伸ばすことができると考えます。良い美術作品に触れるだけで豊かになれるのです。縦構図と横構図の名画から、あなたは何を感じることができるでしょう。
ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ(Vincent Willem van Gogh)
1853年 – 1890年
ポピー、矢車菊、シャクヤクと菊と花瓶
花瓶の中に美しく彩られた数々の草花。左側は華やかで心が暖かくなるような印象を受けますね。反対に右側は草花がどことなく元気がないように感じます。二面性を描きたかったのかもしれませんね。縦構図で描かれたこの作品は、前後に多様な色彩が添えられており、空間の奥行きが演出されています。
喜多川歌麿(Kitagawa Utamaro)
1753年頃 – 1806年
姿身七人化粧
特別な女性の化粧をしている姿は、男性目線では魅力的に映るものです。これはご先祖様たちも変わらなかったのですね。丸い大きな鏡を前に、身づくろいをする女性の後ろ姿に色気を感じます。通常なら鏡を垂直に撮ってしまいそうですが、あえて斜めに描いています。これを粋と言うのでしょうね。
ジャン=フランソワ・ミレー(Jean-François Millet)
1814年 – 1875年
落穂ひろい
少年時代、物心つく前からよく観ていたジャン=フランソワ・ミレーの『落穂ひろい』。リビングに飾ってあったため幾度となく眺める機会がありました。貧しい農婦の労働の重苦しさを描きながらも、明るい朝陽に照らされている希望が客観的な横構図で描写されています。
葛飾北斎(Katsushika Hokusai)
1760年頃 – 1849年
神奈川沖浪裏
葛飾北斎が制作した木版画の『神奈川沖浪裏』(かながわおきなみうら)。世界で最も知られている日本の美術作品です。縦構図で中心だけを描くこともできたのに、横構図で左右の大波を表現し富士山はあえて小さく構成されています。上部には雲の流れが描かれています。空間を調整していますね。計算され尽くした横構図の魅力を感じます。
最後に
縦構図と横構図の写真が持つイメージは、絵画や木版画の名画と同じように鑑賞者の知らない間に大きな影響を与えています。主題をどう切り取り副題に添えるか。前景や背景にどのような意味を持たせるかなど、その表現方法は多岐に渡ります。過去から現在へ続く審美的感覚に触れるだけで、また新しい創作意欲が生まれてきますね。今後も先人たちに少しでも近づけるように、アートやクリエイティブを楽しんでゆけたら素敵ですね。
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