マズローの欲求段階(自己実現理論)から思い巡らすクリエイターの理想像
立ち居振る舞い
目次
写真家、作家、表現者、アーティストとして、鑑賞者に喜び楽しんで貰いながらも共感や信頼などを得るためには、どのような立ち居振る舞いがベストでしょうか。機材や撮影テクニックについて書かれているものは多いですが、クリエイターとしての立ち居振る舞いは誰にも教えては貰えませんね。行動する上の基準で最も重要なこととは一体なんでしょう。そこで、ここでは、マズローの欲求段階(自己実現理論)から理想像を考察してみます。
1.自己実現理論
人間の欲求は下記の図のように5段階のピラミッドのように構成されています。これはアメリカの心理学者アブラハム・マズローが提唱する人間の欲求を理論化したものです。人は低階層の欲求が満たされると、より高次の階層の欲求を欲するとされています。
2.欲求の階層をピラミッドで表現した図
- 第5段階: 自己実現の欲求 (Self-actualization)
- 第4段階: 承認(尊重)の欲求 (Esteem)
- 第3段階: 社会的欲求 / 所属と愛の欲求 (Social needs / Love and belonging)
- 第2段階: 安全の欲求 (Safety needs)
- 第1段階: 生理的欲求 (Physiological needs)
3.マズローの欲求段階説について
欲求段階説とはアメリカ合衆国の心理学者、アブラハム・マズローが理論化した人間の欲求を5段階の階層であらわしたものです。人間には5段階の欲求があり、一つ下の欲求が満たされると次の欲求を満たそうとする基本的な心理的行動を表しています。
3-1.第1段階:生理的欲求(食物、水、空気、性等)
人間の第一欲求は「生理的欲求」です。生理的欲求とは生命を維持するための本能的なものです。人間が生きていくうえで欠かせない欲求となります。食欲や睡眠欲や性欲等が該当します。日本はGDP(国内総生産)第3位の豊かな国であるため、心身が通常の健康な人間は生理的欲求が満たされると安全欲求が現れます。
3-2.第2段階:安全欲求(心身の健康、経済的安定、穏やかな暮らし)
生理的欲求を満たした人間は、次に危険を回避する行動を求めます。最低限の衣食住を維持したいと願う「安全欲求」です。心身の健康や経済的安定性、危険のない暮らしなどが該当します。社会人として働き、文化的に暮らしている者はこの欲求に対して満足している場合が多いため、安全欲求を真の動機付けとしていることはあまりありません。
3-3.第3段階:社会的欲求(集団の一員、帰属意識、他者との愛情関係)
生理的欲求と安全欲求が十分に満たされると次に「社会的欲求」が現れます。友達や仲間が欲しい社会に関わりたい集団に属したいという欲求です。人々がFacebookやTwitterなどのSNSを使う理由は、この社会的欲求が大部分を占めています。人間は第三欲求まで到達すると前述の2つとは異なり、直接的に生命の危機にさらされることはありません。しかし、社会的欲求が満たされない状態が続くと、孤独感や社会的不安を感じやすくなります。
3-4.第4段階:承認(尊重)欲求(自尊心、他者からの上位・対等承認)
社会的に満たされると次は承認や尊重を求めます。それが「尊厳欲求」です。周りから認められたい褒められたい賞賛を手にしたいと願う欲求を指します。食べることや眠ることで生命が維持され、衣食住の安全を手に入れ、社会との関わりを持つことで、人間の欲求は内側に向けられます。第三欲求までは外的に満たされたいという想いから出てくる欲求です。第四欲求からは内的に満たされたいという願いに変わってきます。
3-5.第5段階:自己実現欲求(限界への挑戦、創造的な活動)
人間は内的に満たされると、最後には「理想のあるべき自分」になりたいという欲求が生まれます。それが、「自己実現欲求」です。例えば写真家が自分の表現したいテーマの作品撮りや制作に打ち込んでいるようなケースを指します。これはあくまで、自己表現の欲求によって行動している状態です。他者からの賞賛を求めて行動している場合は自我の欲求であり自己表現の欲求ではありません。そこに無償性が含まれているかという点が違いと言えるでしょう。
3-6.最終段階:自己超越欲求(共同体(コミュニティ)発展欲求)
晩年のアブハム・マズローは、5段階のさらに上に最終段階の「自己超越」という欲求が存在することを発表しました。「自己超越」とは目的の遂行・達成”だけ”を純粋に求めているという領域であり、他者からの賞賛も必要とせず、そこにはエゴもなく自我を忘れて、ただ目的のみに没頭している状態であると提示しました。この段階に達しているのは全人口の2%程と云われています。ボランティア指向が強い方や、シェアの文化などは自己超越欲求の領域に触れているのかもしれません。
4.表現者としての理想のエネルギー
マズローの欲求段階(自己実現理論)をクリエイター視点で紐解くと、自己の利益よりも他者の利益を優先する考え方の「利他主義」こそが、表現者としての理想の立ち居振る舞いになると考えます。つまり、自分自身のためだけではなく、エゴなく他者を豊かにしたいと願う自己超越段階へ到達することこそが理想の行動基準となり、ベストなエネルギーを与えることができるのです。
4-1.利他主義
利他主義(りたしゅぎ)とは、自己の利益よりも、他者の利益を優先する考え方。 対義語は利己主義。 「自然状態の人間は利己主義的であるが、人間が普遍的利益の重視や利他的な行為をすることができるのは、人間に固有の精神性による。
4-2.利己主義
利己主義(りこしゅぎ)は、自己の利益を重視し、他者の利益を軽視、無視する考え方。ナルシシズムの表れとするものもある。エゴイズムとは区別される場合も存在する。
4-3.意識は「あなたの為に」ではなく「あなたを想い」
「この1枚はあなたの為に撮りました」と写真家に伝えられた場合、多くの方は喜ぶのかもしれません。耳障りが良いですしね。しかし、例えその方の為に撮っていたとしても、あなたの為にではおこがましいと考えます。なぜなら、結局は巡り巡って自分の為だからです。ですが、「あなたを想い」なら自らが勝手にしたことです。そこにはおこがましさはありません。そう、大切なのは無償性なのです。
4-4.自己超越欲求へのキーポイントは無償性
側にいる人を幸せにしたい輝かせたいと願うのであれば、まずは自分が輝くことが必要だと考えます。その為には、クリエイターとして第3段階の社会的欲求を満たし、第4段階の承認(尊重)欲求も乗り越え、賞賛を求めない第5段階の自己実現欲求の段階でいるべきです。最終段階の自己超越欲求は、一つ一つをクリアした後に到達することができます。この段階は、仏教や禅における「無我の境地」かもしれませんね。
5.求めるのではなく先に与えること
SNSによるネットコミュニケーションを長く、また頻繁に続けることにより苦痛や疲労を感じる状態を「SNS疲れ」と言います。多くの人は自分の自慢話ばかりが多い人のSNSはウザいと感じ次第に見なくなると言われています。確かに、賞賛を求めるばかりでは表面上は祝福してくれていたとしても、人間は感情の生き物ですから本心を知ることはできません。
ほとんどの人は、仕事でミスをした、恋人と別れてしまったという他者の失敗談は感情移入をして聞いて受け止めてあげることができます。そこには才能は必要ありません。反対に、人の成功談を聞いて受け止めてあげるには才能が必要です。「なぜ自分は」と考えさせてしまうからです。何がポイントなのでしょうか。筆者が写真家としての活動を行ってきたうえで、人気者や人格者には下記の特徴があると感じています。
5-1.与えられる人
常に他者の利益やニーズに応えようと注意を払えるのが与える人の特徴です。自分が受け取るよりも、それ以上に相手に与え返そうとできる人のことです。与えられる人であれば、例え時間差があったとしても、「エネルギーの法則」により、プラスはプラスのエネルギーとして必ず返ってきます。
5-2.楽しませられる人
写真はあくまでエンターテイメントの一種だといえます。鑑賞者がいなければ作品を観て貰うこともできません。皆に好かれる人はエンターテイメント性を備えています。写真だけに限らず、行動や言葉や意識や人間性等と合わせて楽しませているのです。
5-3.人の痛みを理解できる人
表現者として時間を進めていくと、写真展や機材を購入した時や公募展などで賞を取った場合、報告する機会が生まれます。もし報告するならば、その時の伝え方はとても大切です。自慢と捉えられてしまう可能性が高いからです。強さばかりではなく優しさも兼ね備えた、人の痛みの分かる精神性の深い表現者であることが理想と言えます。
最後に
筆者自身も機材を新しく購入した際に、まとめて撮影しアップしようと考えたことがありました。信頼できる友人に話したところ、「それって中高年男性の撮影者に多くない?機材を買いたくても買えない人も見ているのだからアップしない方が良いよ」と伝えられました。
確かに、私のその行動は誰かに求められたものではなく、他者を楽しませようというものでもありませんでした。承認(尊重)欲求が強く含まれていると気付いたので止めました。ただ、強さを特に好む方もいます。
いつか、「カメラバッグを見せてください」という需要が生まれた際に、エンターテイメントとして昇華できれば良いですね。こんな感じに目的意識をしっかりと持ちながらも、失敗を繰り返すことこそが、表現者として良いエネルギーを与えられるようになる、なによりもの近道なのかもしれませんね。
まじまじ
とても感動しました!
私の人生にも生かしたいと思います♪
Masahiko Futami
まじまじ様
コメントありがとうございます。まじまじ様の感覚をお伝え頂き嬉しく思います、